[ふるさと納税で住宅ローン控除が減少?] 併用計算ツールで具体的に検証:限度額下がらないのに自己負担が増す場合(ワンストップ特例で回避も)
(2019/07/01) 本文更新
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『住宅ローン控除が減少とは?』
『実際に「控除の減少」がどのくらいかの見積』
住宅ローン控除とふるさと納税の併用について、図や計算例を用いてわかりやすく解説。面倒な計算を簡単に計算するツールも紹介します。
もくじ
まず、「ふるさと納税」とその「限度額」とは
「ふるさと納税」は別名「ふるさと寄付金」で、地方自治体(都道府県市区町村限定)に、所定の方法で寄付すること。
寄付先は、そこが自分の出身地だとか、過去に住んでいたとかは関係ありません。(町内会や学校、公益法人、政治団体などへの寄付とは種類が異なります。)
この寄付の翌年に所得税の確定申告をすることにより(※確定申告義務のないサラリーマン等なら、所定の手続きにより5カ所の寄付まで確定申告不要)、
納める税金(給料から引かれたり自分で納付したりする所得税や住民税)から、自己負担額を差し引いた金額(最大で寄付した金額から2000円を除いた額:例えば寄付1万円で最大8000円)を減らしてもらえます。
つまり、納付する税金の一部を、好きな町などへの寄付金に変えることができます。
それだけではなく「ふるさと納税」なら、寄付に対する御礼の特産品等を自由に選び、送ってもらうことができます。「御礼の品が自己負担額以上の価値があるもの」を選ぶことで、結果的に家計の出費が減ることになります。
ただし、最大限の減税効果を得る(自己負担額を少なくする)には、所得状況に応じた一定限度の寄付額に抑える必要があります。
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住宅ローン控除は「得するふるさと納税の限度額」に影響するのか
サラリーマンで住宅ローン控除を併用して「ふるさと納税」をした場合、損をするのかどうか、というところを調べてみました。
まず、よくある疑問に対して結果をまとめると、以下のようになります。
①住宅ローン控除があると、ふるさと納税の限度額は下がるの?
→ふるさと納税のみ現れる特例控除額の限度(いわゆる所得割の20%限度)は、住民税の計算では住宅ローン控除前の段階で計算されるため、ふるさと納税の限度額は下がらない。つまり、住宅ローン控除がない場合と同じ限度額となる。(ただし、条件によっては、負担額が2000円を超える場合(※)が出てくる。)
※「ふるさと納税の限度額」が下がらないのに「負担額が2000円を超える場合がある」というのは?
→一般的な限度額では「(A)特例控除の限度に達する寄付額」=「(B)負担額が2000円となる寄付限度額」となりますが、条件によっては(A)=(B)とならないという意味です。
②住宅ローン控除があると、ふるさと納税の自己負担額は増えるの?
③「住宅ローン控除減少による負担増」は、ふるさと納税する金額を下げれば消えるの?
回避策として考えられるのは「申告する所得」を増やすこと。特定口座の配当や株式譲渡益があって、申告しないで税金が引かれっぱなしの分を申告することで、その税金からも住宅ローン控除を引けるようにして、「住宅ローン控除が引ききれていない状態」から脱出できればラッキー。(国民健康保険料などが多少増える可能性はありますが。)
④他のサイトで「住宅ローン控除で所得税を引ききっている場合は、正常な計算ができません。」とあるが、所得税が残っている場合は?
⑤住宅ローン控除があると、ふるさと納税で控除される住民税が足りなくなるのでは?
⑥上の①~⑤を読んでも意味が分からない?
別の言い方で結果を示すと、
下記の理由から、給与収入の場合では、下の条件(※1,2)のほか特殊な条件を除いた場合は、その影響は「ほぼ」ないのではないかと思います。
すべての場合での根拠を示すのは難しいので、あくまで個人的な見解であり、参考程度にしてください。
●限度額が下がり、自己負担が増える可能性のある条件1:
【医療費控除や雑損控除などで多額に追加の控除がある場合】
⇒ふるさと納税した後、確定申告で医療費控除や雑損控除を多額に適用すれば、住宅ローン控除の問題以前にふるさと納税の得する限度額が下がって、その限度額をオーバーしてしまえば自己負担額が増える可能性あり。
●限度額は下がらないが、自己負担が増える可能性のある条件2:
【住宅ローン控除が住民税の方で控除適用限度に"達している場合"】
⇒住宅ローン控除できる額が変化(減少)して、結果的に自己負担額が増えます(最大で所得税におけるふるさと納税の税額軽減分の約2倍)。次の「ふるさと納税する前から、住宅ローン控除が住民税の方で控除適用限度に"達している場合"」をご覧ください。
このあとの説明を飛ばして、限度額目安や、「住宅ローン控除額の減少」を考慮した自己負担額の計算は次のツールでできます。
▼ふるさと納税する前から、住宅ローン控除が住民税の方で控除適用限度に"達している場合"は「控除が減少」
控除適用限度に"達している"かどうかの確認は?
達しているか否かで、ふるさと納税をしたときの控除が変わってくるということですが、
そもそも「達しているかどうかの確認方法は?」となるかと思います。
これには住民税を計算する必要がありますので、計算ツールを使うと簡単に調べられます。下の動画はその確認方法です。
・「住宅ローン控除が住民税で控除限度に達しているかどうか」の確認方法
・「住宅ローン控除が住民税で限度に達している場合」の『自己負担額』の確認方法
以下は手持ちの資料から所得税だけを見て前年はどうだったかの確認方法をご紹介。
①サラリーマンで、年末調整により住宅ローン控除を行っている場合
源泉徴収票の中段にある(摘要)欄の「住宅借入金等特別控除可能額」から、一段上の右端「住宅借入金等特別控除の額」を差し引いた残りの金額が、住民税に持ち越される住宅ローン控除の額です。
その額が、消費税率5%での購入なら約10万円以上残っている、消費税8%率での購入なら約14万円以上残っている場合は、『住宅ローン控除が住民税の方で控除適用限度に"達している"』可能性が大きいです。
②確定申告により住宅ローン控除を行っている場合
確定申告書の右側の「税金の計算」欄の「住宅借入金等特別控除」の金額からその直前の配当控除後の税額を差し引いた残額が、住民税に持ち越される住宅ローン控除の額なので、その後は上記①と同じ様に比較してください。
※次の計算ツールでは、所得税の情報から住民税まで計算して、"達しているかどうか"の目安も表示できます。
「住宅ローン控除が減少」とは?
寄附金控除を適用する以前に、その年の住宅ローン控除が住民税の方で控除適用限度に達している場合(つまり、住宅ローン控除額の満額が所得税と住民税から引き切れていない場合)があります。
この場合は、控除できる所得が十分あるにもかかわらず、住宅ローン控除できる額が変化(減少)することにより、「所得税分のふるさと納税の恩恵」が受けられなくなる可能性があります。
この条件でふるさと納税をすると、次のようなことが起こりえます。
上の図2「限度に達している場合」を見ると、所得税側で住宅ローン控除額を引ききれていないので住民税側でも住宅ローン控除額が引かれます。この状態で所得税の寄附金控除が加わります。
所得税では住宅ローン控除よりも先に寄附金控除が適用されますので、寄付金控除により、所得税額が減った影響により所得税側でさらに引ききれなくなった分の住宅ローン控除額は、住民税に持ち越されても既に住民税側で適用限度に達しているため、結局、所得税分の寄附金控除がなかったものと同じ結果になります。
順番をつけて控除を適用していくと、(以下、設定として、所得税率は10%、住宅ローン控除が住民税側で限度に達している前提で、ふるさと納税をした場合がA、しなかった場合をBとします) 1.所得税において寄付金による所得控除:1万円-2千円=8千円が適用され、それに所得税率10%適用分の800円が控除 2.残った所得税はすべて住宅ローン控除で控除されるが、先に800円の所得税が減っているので、所得税における住宅ローン控除適用額はAに比べBの方が800円少なくなります。 ※Bの場合の所得税額=Aの場合=0 3.住民税で住宅ローン控除が先に控除されます。住民税における住宅ローン控除適用額は、もともと限度に達しているのでAもBも変わりません。(住宅ローン控除が限度に達していなければ控除適用額は800円増えるはずでした→図1) 4.住民税でふるさと納税による控除のうち8千円-所得税分800円=7200円が控除されます。 ※Bの場合の住民税額=Aの場合-7200円 よって、住宅ローン控除適用額が800円減った分、負担が800円増えたことになります。「800円なら別に…」と思うかもしれませんが、もし、住宅ローン控除40万円でふるさと納税額が8万2千円であったら、8万円×10%=8000円も負担が増えてしまいます。 |
つまり、ふるさと納税が全額控除(2千円を除く)されたのに、「住宅ローン控除が減少(税金をマイナスしてくれるものが減る)」されて、ふるさと納税した分のうち『3階建ての控除のうち①所得税の寄附金控除分※』は戻ってこないことになります。
(※ふるさと納税の控除について詳しくは記事「得する限度額目安一覧」の『なぜ「限度」があるのか』」をご覧ください。)
控除が減少してしまう『3階建ての控除のうち①所得税の寄附金控除分』の税金は、具体的には、
です。
●さらに次の条件も当てはまると、ふるさと納税した分のうち、①の2倍程度が戻ってこなくなる(控除が減少する)可能性があります。
それは、住民税の住宅ローン控除の適用限度が所得税のほうで決まってしまう場合、主に所得税率が5%となる所得の場合です。
「所得税の課総等(※)×5%」 < 97,500円
もしくは消費税8%での住宅取得なら、
「所得税の課総等(※)×7%」 < 136,500円
(※課総等=課税総所得金額+課税退職所得金額+課税山林所得金額 です。参考:地方税法附則 第五条の四の二)
というのも、
ふるさと納税をすると所得税側で【寄付額から2000円を引いた額】の控除が増える
↓
上記の「所得税の課総等」が【寄付額から2000円を引いた額】だけ減る
↓
その5%ないし7%分の住宅ローン控除の控除適用限度が下がる
↓
控除適用限度が下がった分の住民税が増える、ということです。
これにより、ふるさと納税した分のうち、戻ってこなくなる額は次のようになります。
よって、先の減少分と合わせると、
①+①’ ≒ ①×2 = 【寄付額-2千円】×10% (所得税率5%の場合)
ワンストップ特例との関係
ちなみに、ワンストップ特例を適用できれば、住宅ローン控除の適用限度の影響を受けず、所得税分のふるさと納税の控除が住民税に移されるのではないか、ということを以下の記事にまとめました。(ただし、住宅ローン控除適用の初年度は、確定申告が必要なため、ワンストップ特例は利用できません。)
「住宅ローン控除の減少分」があるときの、ふるさと納税の「限度額」の意味は?
ふるさと納税で最大限控除される場合の限度額の計算方法はいくつかありますが、住民税所得割額から計算しているものは住宅ローン控除を考慮していないため、この「控除の減少」は考慮されていません。
しかし「控除の減少」がある場合のふるさと納税の限度額でも、一方で寄附金控除においては全額控除(2千円を除く)されていて、他方で住宅ローン控除が減るという意味なので、それはそれで「"寄附金控除のみ考慮した場合の"ふるさと納税で最大限控除される限度額」と言えます。
では、この"控除の減少"も考慮してもなお「2000円の自己負担で抑えられるふるさと納税の限度額」はあるのかというと、ありません。(当たり前ですが、控除の減少があれば必ず自己負担は2000円を超えるため。)
次のグラフは、ふるさと納税の限度目安が4万円の人の場合で、住宅ローン控除が適用限度に達しているか否かによる自己負担額の推移です。赤線と青線の差額が住宅ローン控除の減少による負担増分となります。
住宅ローン控除が住民税で限度に達している場合には、「ふるさと納税限度額」として計算されたその限度額以内でふるさと納税をしても、自己負担額は『2千円』+『住宅ローン控除の減少分』となります。
●実際に「控除の減少」がどのくらいかの見積●
計算設定は、平成28年分、サラリーマン40歳以上で専業主婦を扶養、その他一般扶養控除1人分、そして住宅ローン控除が住民税側で上限一杯に達している状況(つまり住宅ローン控除申告額が表の(A)または(B)を超えている場合)で、ふるさと納税を限度目安まで行っている場合です。
表にある(A)(B)の住宅ローン控除適用限度は、寄附金控除と住宅ローン控除適用前の所得税額(復興税含まず)と住民税側での住宅ローン控除の適用限度を合わせた金額なので、実際には源泉徴収票や申告書に記載する控除申告額の方が下回る可能性があります。ここでは、(A)(B)より控除申告額の方が大きい場合を計算しています。
表下の(注)のように、控除申告額の限度が(A)(B)を下回る場合(つまり住宅ローン控除が住民税の方で控除適用限度に"達していない"場合)でも、ふるさと納税額プラス住宅ローン控除申告額が(A)(B)を超える場合は「控除の減少」の影響が一部残ります。
下の表は1つの計算設定の結果に過ぎませんし、そもそも「なんだかよくわからない」という場合は、以下の計算ツールでご自身の所得状況で住宅ローン控除額を入力後、ふるさと納税額を入力して「自己負担額を表示」ボタンを押してシミュレーションしてください。
※控除の減少分は所得税率10%までは、およそ (寄付額-2千円)×10% です。
天引前の 年収 | 寄付 上限 目安 [28年] | 消費税【5%】時に取得 | 消費税【8%】時に取得 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
住宅ローン 控除 適用限度 (A) | (A)の内 住民税側 の限度 | ふるさと 納税 自己負担 額 | 住宅ローン 控除 減少分 | 全控除後 住民税額 | 住宅ローン 控除 適用限度 (B) | (B)の内 住民税側 の限度 | ふるさと 納税 自己負担 額 | 住宅ローン 控除 減少分 | 全控除後 住民税額 | ||
▼ 所得税率:5% 住民税率:10% ▼ | |||||||||||
360万 | 1.9万 | 6.5万 | 3.27万 | 3,800円 | 1,800円 | 3.0万 | 7.8万 | 4.57万 | 4,000円 | 2,000円 | 1.7万 |
420万 | 2.8万 | 10.3万 | 5.13万 | 4,600円 | 2,600円 | 4.0万 | 12.3万 | 7.18万 | 5,100円 | 3,100円 | 2.0万 |
480万 | 3.7万 | 14.1万 | 7.07万 | 5,600円 | 3,600円 | 5.2万 | 17.0万 | 9.89万 | 6,200円 | 4,200円 | 2.4万 |
540万 | 4.7万 | 18.4万 | 9.19万 | 6,500円 | 4,500円 | 6.4万 | 22.1万 | 12.86万 | 7,500円 | 5,500円 | 2.8万 |
▼ 所得税率:10% 住民税率:10% ▼ | |||||||||||
600万 | 6万 | 22.1万 | 9.75万 | 7,900円 | 5,900円 | 8.9万 | 26.0万 | 13.65万 | 7,900円 | 5,900円 | 5.0万 |
660万 | 7万 | 25.8万 | 9.75万 | 9,000円 | 7,000円 | 11.7万 | 29.7万 | 13.65万 | 9,000円 | 7,000円 | 7.8万 |
720万 | 8.2万 | 30.7万 | 9.75万 | 10,100円 | 8,100円 | 15.5万 | 34.6万 | 13.65万 | 10,100円 | 8,100円 | 11.6万 |
▼ 所得税率:20% 住民税率:10% ▼ | |||||||||||
780万 | 10.7万 | 37.6万 | 9.75万 | 23,400円 | 21,400円 | 18.9万 | 41.5万 | 13.65万 | 23,400円 | 21,400円 | 15.0万 |
840万 | 12.1万 | 47.5万 | 9.75万 | 26,300円 | 24,300円 | 22.8万 | 51.4万 (※控除は 50万まで) | 13.65万 | 12,500円 | 10,500円 | 18.9万 |
900万 | 13.6万 | 57.7万 | 9.75万 | 29,400円 | 27,400円 | 26.7万 | 61.6万 (※控除は 50万まで) | 13.65万 | 2,600円 | 600円 | 31.7万 |
(※注)年収840万、900万の8%取得における(B)住宅ローン控除適用限度は、所得税で規定する8%取得の住宅ローン控除の申告額の限度が多くとも50万円であるので、単独の住宅ローン控除では住民税側で上限一杯にはなりえませんが、影響が一部残っているので、参考のため記載しています。
個別計算での例:給与額面年収480万円単身
条件は平成28年の給与額面年収480万円単身です。
寄附金控除・住宅ローン控除、基礎控除、社会保険料控除(70万円)以外の控除はなしです。
この条件の場合のふるさと納税が全額控除となる目安の額は「58,000円」です。
例として、住宅ローン控除額を250,000円(消費税5%時取得)とします。
ここで、住宅ローン控除の余地(適用限度)の計算方法は以下になります。
「所得税額(復興税含まず)」
+「"所得税"の課税総所得金額等の5%もしくは97,500円のうち小さい金額(※)」
(※消費税8%での住宅取得等なら、「"所得税"の課税総所得金額等の7%もしくは136,500円のうち小さい金額」)
●A.住宅ローン控除なしの状態
ふるさと納税を全額控除目安いっぱいの58,000円をすると、
計算結果は、約56,000円の税額が軽減されることになります。(2,000円自己負担)
(ちなみに、この状態での「所得税+復興税+住民税」は表から300,400円)
●B.住宅ローン控除250,000円ありの状態(控除適用限度に達している)
住宅ローン控除余地は、
所得税額118,900円+住民税の住宅ローン控除適用限度97,500円=216,400円。
ここに、控除余地を超える住宅ローン控除250,000円を適用すると、
下の表のように、「所得税分のふるさと納税の恩恵」である
およそ【寄付額から2000円を引いた額】×【所得税率(この例では10%)】の税額が軽減できなくなります。
●C.参考:住宅ローン控除150,000円ありの状態(控除適用限度未満)
住宅ローン控除余地は、先ほどと同じ、216,400円。
ここに、控除余地未満の住宅ローン控除150,000円を適用すると、
計算では、先ほどとは異なり、住宅ローン控除なしの状態と同じくらいの税額軽減が出てきます。
●まとめ
住宅ローン控除の税額控除は最高でも年60万円なので、
問題にしている条件にあてはまるときは、
所得税率は5%~20%となり、
結局、住宅ローン控除が住民税の方で控除適用限度に"達している場合"は、
2000円を引いた寄付額の5%~20%相当の自己負担が増える可能性があるということになります。
下の計算ツールで実際に適用限度額目安を計算してみるといいと思います。
▼住宅ローン控除が住民税の方で控除適用限度に"達していない"場合なら自己負担額は2000円を超えないのか?
住宅ローン控除とふるさと納税の関係
前提として、寄附金控除と住宅ローン控除を行う前に、
医療費控除や雑損控除後でも「得する限度額の条件」を満たす所得が残っているとします。
問題となるのは、
「住宅ローン控除により、ふるさと納税の寄附金控除が引ききれなくなることがあるかどうか」です。
引ききれないとなると、ふるさと納税をしても税金が戻ってこないので、「得する限度額」でも得しなくなってしまいます。
その判断をするにあたって重要なのが、
「住宅ローン控除の控除順序と控除適用限度額」です。
「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」と「ふるさと納税にかかる寄附金の控除」の控除順序は次のようになります。(一部のみ抜粋)
寄附金控除(所得控除) ⇒ 一旦、税額の算出 ⇒ 住宅ローン控除(税額控除)
【住民税】
所得割額の計算 ⇒ 住宅ローン控除(税額控除:所得税で引ききれなかった分) ⇒ 寄附金税額控除
[住民税における税額控除の順序:中央区HP]
所得税では、所得が残っていれば寄附金控除が先に引かれます。
寄附金控除によって押し出されて控除しきれなくなった住宅ローン税額控除額は、住民税に持ち越されます。
しかし、
住民税の方では先に住宅ローン控除が適用されるので、
寄附金控除を控除しきれないこともあるのかなと思ってしまいますが、
そうでもないようです。
住宅ローン控除があっても、ふるさと納税の余地がある
それは、住民税における住宅ローン控除額には控除適用限度があり、住民税額が残るからです。
以下、専門用語が出てくるややこしい計算が始まります。
住民税における住宅ローン控除の適用限度は、
「"所得税"の課総等」の5%(最高97,500円)、または消費税8%で取得なら7%(最高136,500円)です。(※課総等=課税総所得金額等。課税所得の一部です。)
住民税における調整控除後の所得割(以下、調整控除後所得割)は、所得が給与所得を仮定すると、
「(A)調整控除後所得割」
=「住民税の課総等×10%から調整控除額を引いた額」
≒「(B)住民税の課総等から人的控除の差額を引いた額」×10%
です。
([注]人的控除の差額は、所得税の所得控除と住民税の所得控除の差額の一部です。)
また、給与所得の場合は大雑把には、
「(C)所得税の課総等」≒「(B)住民税の課総等から人的控除の差額を引いた額」
なので、
「(A)調整控除後所得割」≒「(C)所得税の課総等」×10%
よって、住民税から住宅ローン控除の適用限度額を引いても、
つまり、(A)から「(C)所得税の課総等」の5%(もしくは7%)を引いても、
残り[(B)の3~5%]で寄附金控除額を引ききることができます。
課税所得に占める寄付金控除額の割合
“「(B)住民税の課総等から人的控除の差額を引いた額」の3~5%で寄附金税額控除が引ききれる"というのは、(B)に対する寄付金税額控除額の割合をみればわかります。
ここで、
ふるさと納税の寄付金の控除は「3階建て」になっています。
② 住民税の寄附金税額控除の基本控除
③ 住民税の寄附金税額控除の特例控除
住民税に関しては②③であり、寄付額を増やしていくと最初に③が限度(これが全額控除の限度であり、ふるさと納税の得する限度でもあります)に達します。
今はその限度ちょうどの状態での、(B)に対する②③の割合を計算します。
『③特例控除分』は最大で住民税の調整控除後の所得割の2割まで、
ということは(A)の20%、
つまり上の概算式を使うと(B)の10%のさらに20%で、
(B)の2%となります。
『②基本控除分』は、③特例控除分のせいぜい1割5分[注]なので、
(B)の0.3%(2%の1割5分)。
([注]住宅ローン控除の課総等による限度判定に引っかかる可能性があるのは、所得税率がせいぜい20%なので②÷③=10÷70<0.15。)
補足:
ワンストップ特例を利用すると、④申告特例控除額として、限度額以内の寄付なら①と同額が住民税所得割から追加で控除されます。この分を見積もると、
所得税率がせいぜい20%なので①÷③=20÷70<0.3
つまり、(B)の0.6%(2%の3割)。
これらを合計すると、2%+0.3%+0.6%=2.9% となります。
計算結果:住宅ローン控除後の住民税でも「ふるさと納税」の寄附金控除は引ききれる
いろいろ大雑把に見積もりましたが、合計すると、
となり、
住宅ローン控除後の住民税でも「ふるさと納税」の寄附金控除は引ききれるという計算になります。
実際の計算の例は、上の『●参考:住宅ローン控除150,000円ありの状態(控除余地未満)』を参照してください。
こう見ると、うまく調整された制度のようですね。
(ただし、給与以外の所得や特例的な控除がある場合などは確認していません。)
下の計算ツールで実際に限度額目安を計算してみるといいと思います。
▼住宅ローン控除が住民税の方で控除適用限度に"達していない"場合で、あともう少しで控除適用限度に達しそうな場合の、ふるさと納税の限度額
住宅ローン控除が控除適用限度に達していないものの、あともうちょっとで達しそうな場合は、一般的な限度額でふるさと納税を行うと課税所得が下がり、それによって住宅ローン控除が控除適用限度に達してしまいます。つまり、住宅ローン控除の減少分による自己負担が発生してしまいます。
では、住宅ローン控除の減少分が発生するまでの、自己負担が2000円を超えないようなふるさと納税の限度額は計算できないか、というと計算できます。それは次の式を満たすふるさと納税額Aです。
①【住宅ローン控除直前の所得税額(ふるさと納税前)】
+②【住民税での住宅ローン控除限度額】
-③【住宅ローン控除可能額(確定申告書記載額)】
=④【所得税での寄附金控除による所得税の減税額】
例として、具体的な金額を入れて計算すると、以下のようになります。
①【住宅ローン控除直前の所得税額】25.35万円
②【住民税での住宅ローン控除限度額】13.65万円
③【住宅ローン控除可能額】38万円
↓
④【所得税での寄附金控除による所得税の減税額】1万円
また、④【所得税での寄附金控除による所得税の減税額】は次の式になります。
④=(ふるさと納税額A-2千円)×所得税率
所得税率が10%の場合は、
ふるさと納税額A =(1万円 ÷ 所得税率)+2000円 = 10.2万円
所得税率が20%の場合は、
ふるさと納税額A = 5.2万円
この場合、ふるさと納税額Aが一般的なふるさと納税の限度額以下であっても、この金額をこえると、住宅ローン控除の減少分が発生し、自己負担額が2000円を超えてしまうことになります。