[企業版ふるさと納税 計算例] 超過税率の影響:控除率100%超えはあるのか?[計算方法とシミュレーション]
(2022/11/29)
もくじ
企業版ふるさと納税とは
個人版のふるさと納税はよく知られているとおり、
「寄付をした金額から自己負担額を控除した額の減税に加え、返礼品をもらえる」
という制度です。
企業版の方は簡単に言うと、こちらのページにもある通り、
「寄付をした金額から自己負担額を控除した額の減税(+企業名公表で知名度アップ?)」
です。
見返りがもらえないので、減税効果がどれくらいなのか、ということが重要だと思います。
このページではその「減税効果」をツールでシミュレーションしたいと思います。
インターネット上に計算例がほとんどないので、参考にしていただければと思います。
減税効果の計算
想定されている控除割合
令和2年に改正があり「最大で約9割の減税効果」があるといわれています。つまり、自己負担は1割という想定で設計されています。(この特例措置は令和6年度まで。)
上の図を見ると、いくつかの税目で控除される設計です。こうなると、それぞれの税目で想定外の控除額になることが稀にあります。
というのも、個人版のふるさと納税も、所得税で引ききれなくなった分を個人住民税で引く際に、個人住民税の方で控除し過ぎたり、逆に控除が不足してしまったりすることがありました。
注目ポイントは、
・法人住民税の控除額が寄付額の4割に達しない場合、その残額を法人税で税額控除
です。具体的には法人税申告書の「別表6(25)」の3番です。
・3番:差引税額控除基準額残額 (2)-(22)
2番は寄付額の40%、22番では次のようになっています。
・22番:住民税額控除額 (21)×1.4/100
21番は法人税額です。
ここで、1.4%は法人住民税の標準税率(県1%+市6%=7%)の20%です。
法人住民税での控除限度額は、法人税割の20%まで、つまり法人税額×7%×20%=法人税額×1.4%。
よって、3番は「法人住民税の控除額が寄付額の4割に達しない場合、その残額」の計算です。
実際の控除割合
このように、法人税では法人住民税が標準税率で控除したと想定して、その残りを控除するということになっています。
しかし実際には、法人住民税には所得等に応じて「超過税率」が設定されている自治体が多くあります。
※「標準税率」<「超過税率」
例えば、東京都の超過税率は10.4%です。この場合、22番は実際の法人住民税の控除額よりも小さくなり、3番は逆に大きくなります。
よって、法人税から控除できる額(3番)が大きくなり、最初の想定であった「9割控除」を超えることが予想されます。
シミュレーション結果1:超過税率による限度額カサ上げ効果
計算の方法
「計算書」
・法人税の特別控除額は別表6(25)で計算
・法人県民税、法人事業税の特別控除額は第7号の3で計算
「課税標準など」
・寄付額は全額損金算入
・地方法人税の課税標準は、法人税の特別控除[後]の法人税額
・法人県民税の課税標準は、法人税の寄付金特別控除[前]の法人税額(加算調整)
これらを組み込んで、シミュレーションツールを作りました。
計算の結果
以下の設定で計算しています。
・東京都23区内で1つだけの事務所
普通法人、資本金額1億円以下
・法人の所得(寄付金損金算入前)
5000万円
・法人税と法人事業税
段階税率である軽減税率を適用
・超過税率の適用
法人都民税:法人税額(法人税割の課税標準)が年1,000万円超 → 超過税率10.4%
法人事業税:法人所得が2,500万円超 → 超過税率
・控除率がピークになるふるさと納税額
56万円(控除率98%!)
実際の控除額の計算は以下の表のとおりです。※「損金算入効果」は、事業税が翌期の経費になることから、ちょっと複雑になります。このツールでは寄付額に実効税率を掛けるのではなく、寄付の有無で2通りの計算をした差額から、下の税額控除合計額を引き、さらに寄付によって下がった事業税分は、翌期の経費も下がるため、損金算入からマイナスしています。
最初の控除の設計の図にあるように、本来ならば法人住民税と法人税とで合わせて4割を控除するはずが、限度額の計算上、合わせて5割控除されています。
また超過税率により標準税率よりも多くの法人住民税が控除されているため、結果として控除率が100%近くになりました。
※控除率がピークになるふるさと納税額:56万円は次の式で導けます。
「寄付の40%」=「法人住民税法人税割の20%」
↓
「寄付×0.4」=「法人税額×法人住民税率×20%」
※所得が800万円超として、法人税額=120万円+(寄付前所得-800万円-寄付)×23.2%
ピークにおける法人税等の計算式は次のようになります。
ふるさと納税がない場合の法人税等の計算式
※法人税と事業税の軽減税率、東京都の超過税率を適用しています。
※ふるさと納税がある場合とない場合の法人税等の差額を減税効果としています。つまり、
・法人税等の差額:
18,015,500 - 17,404,400 = 611,100
・ふるさと納税による損金算入効果=法人税等の差額-税額控除の合計-翌期の事業税減額効果:
611,100 - 397,768 - 60,438= 152,894
低い所得の場合
低い所得の場合は、ふるさと納税額に応じて9割未満の控除率から単純に減っていく流れになりました。
これは低い所得の場合は控除が9割になる寄付額のピークが10万円を下回るためだと思われます。(寄付は10万円から可能)
※法人税と事業税の軽減税率を適用しています。
10万円が9割控除となる所得
では、どのくらいの所得なら10万円でも9割控除になるのかというと、次のグラフです。
※法人税と事業税の軽減税率を適用しています。
だいたい法人の所得(寄付金損金算入前)が1215万円のところになりました。
所得ごとの控除率がピークとなる寄付額
※法人税と事業税の軽減税率を適用しています。
①超過税率前の所得 → ピーク寄付額=所得の約0.9%
法人所得 (寄付金損金算入前) | ピーク寄付額 | 控除率 |
---|---|---|
1,215万円 | 10万円 | 89.5% |
1,500万円 | 13万円 | 89% |
2,000万円 | 18万円 | 88.5% |
2,500万円 | 23万円 | 88% |
②法人事業税の超過税率(東京都)が発生する所得 → ピーク寄付額=所得の約1%
法人所得 (寄付金損金算入前) | ピーク寄付額 | 控除率 |
---|---|---|
3,000万円 | 29万円 | 88% |
4,000万円 | 39万円 | 88% |
③法人事業税と法人都民税の超過税率(東京都)が発生する所得 → ピーク寄付額=所得の約1.1%
法人所得 (寄付金損金算入前) | ピーク寄付額 | 控除率 |
---|---|---|
5,000万円 | 56万円 | 98.3% |
7,000万円 | 80万円 | 98.1% |
10,000万円 | 115万円 | 98% |
シミュレーション結果2:超過税率の解消による節税効果
ふるさと納税による寄付は全額損金ですので、これにより法人住民税や法人事業税の超過税率が解消されることがあります。つまり、寄付のありなしで税率境界をまたぐ場合です。
この場合は、ふるさと納税による損金算入効果がとても大きくなります。
東京都23区内の設定で、寄付額を50万円に固定して、法人所得(寄付金損金算入前)を増加していくと次のようなグラフになります。
1つ目のピークは、所得が寄付金によって2500万円を割ったことで法人事業税の超過税率が解消された結果です。
2つ目のピークは、法人税額が寄付金によって1000万円以下になったことで法人都民税の超過税率が解消(10.4%→7%)された結果です。損金算入効果を合わせた控除率はなんと153%超!
計算ツール・あとがき
今回の計算では100%を超えるのはごく稀なケースのみでしたが、超過税率の影響で100%に近い控除率もありえることが分かりました。
※事務所所在地の市町村によって超過税率の条件が異なるため、市町村ごとに各種の計算結果が異なってきます。
シミュレーションが本当に正しいかどうかは現在も調査中です。
ご意見ご指摘等ございましたら、問合せフォームからお願いいたします。
むしろ、修正箇所を見つけていただけると助かります。
※検証に使用した計算ツールはこちら。