[ふるさと納税ワンストップ特例と確定申告の比較] 得か損か検証:控除額や自己負担額に違いが出ることも(計算確認ツールあり)
(2018/12/21) 本文を更新
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『確定申告とワンストップ特例の控除の違い』
『[検証]:第2限度額に引っかかる場合にワンストップ特例を選択した方が得する例』
ふるさと納税でワンストップ特例する場合の注意点や、どちらかを選択できる場合で確定申告と比較して自己負担額にどのような影響があるのかを調べました。
もくじ
「ふるさと納税」とその「限度額」とは
「ふるさと納税」は別名「ふるさと寄付金」で、地方自治体(都道府県市区町村限定)に、所定の方法で寄付すること。
寄付先は、そこが自分の出身地だとか、過去に住んでいたとかは関係ありません。(町内会や学校、公益法人、政治団体などへの寄付とは種類が異なります。)
この寄付の翌年に所得税の確定申告をすることにより(※確定申告義務のないサラリーマン等なら、所定の手続きにより5カ所の寄付まで確定申告不要)、
納める税金(給料から引かれたり自分で納付したりする所得税や住民税)から、自己負担額を差し引いた金額(最大で寄付した金額から2000円を除いた額:例えば寄付1万円で最大8000円)を減らしてもらえます。
つまり、納付する税金の一部を、好きな町などへの寄付金に変えることができます。
それだけではなく「ふるさと納税」なら、寄付に対する御礼の特産品等を自由に選び、送ってもらうことができます。「御礼の品が自己負担額以上の価値があるもの」を選ぶことで、結果的に家計の出費が減ることになります。
ただし、最大限の減税効果を得る(自己負担額を少なくする)には、所得状況に応じた一定限度の寄付額に抑える必要があります。
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先に結論
まず、ふるさと納税は『確定申告』する場合と『ワンストップ特例』を利用する場合で、控除される金額が同じかどうかですが、まれに異なる場合があるという計算になります。
最終的にはワンストップ特例の場合と確定申告の場合の両方を計算しないと分かりませんが、傾向として、限度額以内と限度額超過の場合で次のように分けました。
特例控除枠に収まるふるさと納税の場合はワンストップ特例がよさそう
つまり住民税の所得割から計算した限度額以内のふるさと納税をした場合は、ワンストップ特例でも確定申告でも控除額は、基本的には一致します(端数などを除く)。
この場合はどちらを選択した方が良いかというと、より細かく計算するとワンストップ特例を利用したほうが控除額が大きくなる例も一部ある(「参考1:住宅ローン控除がある場合」「参考2:第2限度額がある場合」を参照)ので、できればワンストップ特例を利用したほうがよさそうです。
特例控除枠を超えるふるさと納税の場合は確定申告がよさそう
一方、住民税の所得割から計算した限度額を超えるふるさと納税をした場合(そもそも自己負担2000円に収まりそうにない場合)は、ワンストップ特例よりも確定申告の方が控除額が大きくなり有利(注)と考えられます。
(注:ただし、それでもワンストップ特例を利用したほうが控除額が大きくなる例も一部あります。「参考1:住宅ローン控除がある場合」「参考2:第2限度額がある場合」を参照)
その理由は以下で示すとおり、控除額の計算方法が異なるからです。
※手っ取り早く、どちらが得かを計算したい場合は、計算ツールを使ってください
以下のツールでは、ワンストップ特例と確定申告を同時計算し、得か損かを表示します。
例えば、要点別の入力形式で入力してワンストップ特例を適用した場合には、下のように表示されます。
ワンストップ特例とは
ふるさと納税の「ワンストップ特例制度」は、
- ふるさと納税の寄附金控除以外に、所得税の確定申告をする必要のない給与所得者等(※)で
- 同様に住民税の申告も必要がない人が
- 平成27年4月1日以降のふるさと納税(寄付)をし
- その寄付先団体が5団体以内である場合に
- 翌年1月10日までに各団体に特例申請書を提出し
- 特例申請書に記載した住所と、寄付をした翌年1月1日における住所(市区町村)が同一であれば
確定申告(または市区町村への住民税申告)をすることなしに、ふるさと納税による寄付金控除が受けられる特例制度です。(※ワンストップ特例対象外について詳しくは、地方税法附則:第7条の1の第6項(第13項)を参照)
特例申請書を提出後、その同一年内に引越し等で住所が変わった場合は、その申請書を提出した団体に「寄付金税額控除に係る申告特例申請事項変更届出書」を提出する必要があります。
※「確定申告をする必要のない給与所得者等」とは
所得税が源泉徴収されていて、かつ、一定の要件を満たす給与所得者、退職所得者、年金所得者です。
詳しくは『参考:確定申告不要の条件』を参照してください。
また、所得税の確定申告が不要であっても、住民税のみの申告が必要な場合(例えば給与所得・退職所得以外の所得が20万円以下で、所得税の確定申告義務のない場合)で、実際にその申告をした場合も、ワンストップ特例の適用が受けられなくなります。
ワンストップ特例による控除
まず、ふるさと納税による寄付金の控除は次の3階建てになっています。
② 住民税の寄附金税額控除の基本控除
③ 住民税の寄附金税額控除の特例控除
特例対象外の場合
ワンストップ特例の対象外である人(例えば個人事業主など)は、
所得税の確定申告で寄付金控除欄にふるさと納税額、寄付した地方公共団体名を記載し、寄付金の受領証を添付して申告すると、上の①②③の控除が受けられます。
特例対象者が特例申請書を提出しなかった場合
ワンストップ特例対象者が、
「特例申請書を提出せず」に確定申告もしないと、上の①②③の控除は受けられず、ふるさと納税した全額が「寄付(自己負担)」となります。
特例対象者が特例申請書を提出したが、確定申告をする場合
ワンストップ特例対象者が、
「特例申請書を提出」しているが、雑損控除や医療費控除、もしくは年末調整で控除不足のものがあったり、株取引の赤字の繰越や、過去の赤字と相殺するための繰越控除などにより(その他、非上場株式の配当があり確定申告が必要な場合(住民税のみの申告が必要な場合であっても)や、ふるさと納税のために源泉徴収ありの特定口座株利益をあえて申告する場合など)、確定申告をしようとする場合は、
「特例対象外の場合」と同様に寄付金控除を一緒に申告する必要があります。申告をすると、上の①②③の控除が受けられます。
特例対象者が特例申請書を提出し、確定申告をしない場合
ワンストップ特例対象者が、
「特例申請書を提出」し、確定申告をしない場合は、上の①の控除が受けられない代わりに、次の④の申告特例控除額が住民税の所得割から追加で控除されます。
② 住民税の寄附金税額控除の基本控除
③ 住民税の寄附金税額控除の特例控除
④ 住民税の寄附金税額控除の“申告"特例控除
これは、地方税法附則(e-Govのページ)の「寄附金税額控除に係る申告の特例等」の項目に記載があります。
附則:第7条の2の第1項(第4項)
(上略)申告特例通知書の送付があつた場合においては、申告特例控除額を当該納税義務者の第三十七条の二第一項及び第二項の規定(寄付金税額控除の基本控除と特例控除)を適用した場合の所得割の額から控除するものとする。
※かっこ書きは便宜上、書き加えたものです。
ワンストップ特例による「申告特例控除」の控除額は
先に示した「④申告特例控除」の額はどうやって決まるのかです。同じく地方税法附則の第7条の2の第2項(第5項)をみると、次のような記載があります。
(上略)第三十七条の二第二項に規定する特例控除額に、次の表の上欄に掲げる第三十五条第二項に規定する課税総所得金額から第三十七条第一号イに掲げる金額(人的控除の差額)を控除した金額(およそ所得税の課税総所得金額と同じ)の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる割合を乗じて得た金額とする。
※かっこ書きは便宜上、書き加えたものです。
「同表の下欄に掲げる割合」の例として、例えば所得税率が5%の人の場合は、「85分の5」となっています。(※復興税による補正については第7条の3に記載されています。)
では、具体的に数字を当てはめてみると、所得税率が5%の人の場合で、ふるさと納税の限度額の目安の範囲内の人は、先に示した②③④の控除は、(復興税の補正をせずに説明すると)
③特例控除分:100-5-10 = 85%
④申告特例控除分:③×5÷85 = 5%
となり、結局、所得税の確定申告をせず控除しなかった分「①所得税控除分:5%」と④が同じ金額となります。
確定申告とワンストップ特例の控除の違い
しかし、
ワンストップ特例により受けられない「①所得税控除分」と、ワンストップ特例で追加された「④住民税申告特例控除分」が、どの状況でも同じになるとは限りません。
というのも、「④申告特例控除分」はあくまでも「③特例控除分」をもとに計算されているからです。
「③特例控除分」は、住民税の調整控除後所得割の2割が限度でした。この限度を超えてふるさと納税をすると、「③特例控除分」は同じ額のままなので、「④申告特例控除分」も同じまま。
ですが、
「①所得税控除分」はまだ限度に達していないので、目安の限度を超えてふるさと納税をしても増え続けます。(ただし、増え方は所得税率に応じます。)
下図は所得税率5%、独身年収300万円の場合の、寄付額に対する控除額の模式図(復興税省略)。※寄付額2.8万円が③特例控除分の限度、寄付額76.8万円が①所得税控除分の限度となる場合の例です。
つまり、
ふるさと納税の2000円自己負担分を除いた全額が控除される寄付金額の目安以上の寄付をすると、「①>④」となり、確定申告した方が控除がトータルで大きくなることになります。
ワンストップ特例の利用は「自己負担額」に影響するのか
以上を読んでいただくと分かるとおり、
2000円自己負担分を除いた全額が控除される寄付金額の目安の範囲内であれば、ふるさと納税の自己負担額に対する影響はないのではないでしょうか。
(そもそも、影響がないように作られた特別な制度だと思いますので。ただし、住宅ローン控除がある場合で、ある条件に当てはまる場合は、目安の範囲内のふるさと納税であっても自己負担額が違うことがあります。次の「ワンストップ特例と住宅ローン控除」を参照。)
ですので、
ワンストップ特例対象者は、なるべく確定申告の手間を省けるように、この制度を利用した方が良いと思います。
というのも、
サラリーマンが慣れていない確定申告するためには、仕事があるので平日には確定申告会場に行けず、1回以上あるかないかの土曜開庁の日に、行列に並んで申告しに行かなければなりません。そんな手間は御免だと思います。
参考1:ワンストップ特例と住宅ローン控除
以下の過去記事では、
ふるさと納税する前から、
住宅ローン控除が住民税の方で控除限度に"達している場合"において、「所得税分のふるさと納税の恩恵」が受けられず、自己負担額が増加する可能性があると書きました。
ワンストップ特例を利用すると、所得税分の寄付金の所得控除による影響は(おそらく)関係なくなりますので、住宅ローン控除の限度額にも影響せず、
「所得税分のふるさと納税の恩恵」が「④申告特例控除」として戻ってくるのではないかと考えられます。
もしそうなら、
住宅ローン控除が住民税の方で控除限度に"達している場合"は、ワンストップ特例を利用(住宅ローン控除は年末調整で)した方が有利、
つまり、より多く税金が減額されることも考えられます。
理論上はそうなりそうなのですが…。念のため、注記があるかどうか確認中です。
参考2:ワンストップ特例とふるさと納税の第2限度額の関係
ふるさと納税でできるだけ自己負担額を少なくしたい場合は、得するための限度額を計算してその範囲内で行いますが、その限度額は1種類とは限りません。
以下の記事では、ある条件ではもっと限度額が低くなる第2限度額というものを計算していますが、この第2限度額はワンストップ特例を利用した場合は考える必要はなくなると考えられます。
つまりその場合は、確定申告よりもワンストップ特例を利用した方が有利、となる可能性があります。
以下はその検証についてです。
[検証]:第2限度額に引っかかる場合にワンストップ特例を選択した方が得する例
「確定申告とワンストップ特例は、どちらを選択しても納税額は変わらない」と役所では説明されるけど、実際に計算してみるとどうなのかを検証します。
検証に使うのは、公的機関の計算サイトで、所得税はもちろん、国税庁の「確定申告書作成コーナー」(平成29年分)
https://www.keisan.nta.go.jp/h29/ta_top.htm
住民税は、標準税率を採用している東京都江戸川区の住民税額試算シミュレーションサイト
http://www.tax-asp.e-civion.net/tax-project/tax/edogawa_top.html
両方とも計算後に申告書を作成できるので、この試算結果が間違ってはいないということを前提とします。(住民税の計算サイトは1年遅れですが、税構造に変化はないのでそのまま平成28年の収入で計算します。)
まず、設定です。
第2限度額が発生するためのテストケース(所得税において限界税率が適用される部分の課税総所得金額が寄付金額より少ない場合)として、
土台は給与645万円、社会保険料控除額90万円、加えて基礎控除のみとします。これにふるさと納税額を加えていきます。
最初にこの土台のみで、一般的なふるさと納税の限度額(住民税の所得割額から計算される、控除が最大限となるふるさと納税額)を計算します。
以下が土台における住民税の計算結果です。
調整控除後の所得割額の合計(201,700+134,500)が336,200円です。
これをふるさと納税の限度額の式に当てはめると
(ふるさと納税限度額 - 2000円)×特例控除割合
=住民税の調整控除後所得割額×20%
特例控除割合は横浜市のふるさと納税解説サイトから、(課税総所得金額338.8万-人的控除額の差5万)が333.8万なので、0.6958ですから、限度額は、98,636円となります。以後の計算簡略化のため、98,000円としておきます。これを便宜上、第1限度額と呼びます。
次に土台における所得税を計算します。所得税の限界税率は20%で、所得税額は245,100円です。(説明のため、あえて年調未済で計算しています。)
土台は出来上がりました。
給与645万円、社会保険料控除額90万円、加えて基礎控除の場合、所得税額は245,100円、住民税額は341,200円、ふるさと納税の第1限度額は98,000円です。
ここから、ふるさと納税を98,000円する場合に、①確定申告を行うケースと、②ワンストップ特例を使うケースに分けます。
①確定申告を行うケースで、所得税額を計算します。所得税額は231,400円です。ふるさと納税なしの場合との差額は13,700円です。(年末調整後の場合では還付となり、端数が少しだけ異なります。)
①確定申告を行うケースで、住民税額を計算します。住民税額は264,800円です。
よって、①確定申告を行うケースでは、ふるさと納税を第1限度額まで行った場合、軽減される税額は、
(245,100-231,400)+(341,200-264,800)=90,100円
となり、自己負担額は98,000-90,100=7,900円となります。
この結果だけでも、2,000円の自己負担になっていないということが分かります。
原因は、所得税における課税所得の333.8万円が330万円から3.8万円しか飛び出ていないことです。寄付額から2千円を引いた9.6万円のうちの3.8万円分だけ税率20%の税額が控除され、残りの(9.8-0.2-3.8)=5.8万円分が税率10%で控除されるため、5.8万円×10.21%=約5,900円の自己負担が増え、それに2,000円を足すと約7,900円となります。
次に、②ワンストップ特例を使うケースです。
この場合は、所得税においては何ら変化がないので土台の税額のまま、245,100円です。
②ワンストップ特例を使うケースで、住民税を計算します。
住民税の計算サイトで、ワンストップ特例を適用するところにチェックを入れるだけで計算できます。
住民税額は、245,200円です。
ワンストップ特例の場合の寄付金税額控除額の計算結果は次の通りです。
よって、②ワンストップ特例を使うケースでは、ふるさと納税を第1限度額まで行った場合、軽減される税額は、
341,200-245,200=96,000円
となり、自己負担額は98,000-96,000=2,000円となります。
①確定申告を行うケースでは自己負担が7,900円なのに、②ワンストップ特例を使うケースでは2,000円という異なる結果になりました。
不思議だと思われる方は、ご自身でいろんなケースを試してみてください。
オススメの参考図書
参考:確定申告不要の条件
その収入金額が一定額以下で、かつ、所得税が源泉徴収をされている場合に確定申告不要ということがあります。海外勤務があったりする場合など、詳しくはお近くの税務署等で確認してください。
以下は参考までに概要を列挙します。
給与所得者(サラリーマン)
給料、賞与、その他課税手当(以下、給与等)の年間合計額が2,000万円以下であり、かつ、以下の条件を満たす。
・勤め先が1か所のみで、毎月の給与等から所得税が源泉徴収されていて、かつ、給与所得、退職所得を除く所得金額が20万円以下。
・勤め先が2か所以上で、毎月の給与等から所得税が源泉徴収されていて、かつ、主たる給与以外の給与の"収入"金額(源泉徴収の際に扶養控除等が考慮されていない会社からの給与等)と給与所得・退職所得を除く"所得"金額との合計額が20万円以下。
・勤め先が2か所以上で、毎月の給与等から所得税が源泉徴収されていて、かつ、年間の給与の"収入"金額の合計額が、150万円+各種所得控除額(雑損、医療費、寄付金、基礎の控除額を除く)以下で、さらに、給与所得、退職所得を除く所得金額が20万円以下。
※ただし、同族会社からの給与や、災免法の適用を受けるなどで一定の場合は確定申告が必要になることがあります。
退職所得者(年内に退職金を受け取った人)
・年間の退職手当等を受け取ったごとに「退職所得の受給に関する申告書」を提出し、その所得税が源泉徴収をされている場合。
・「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合で、その退職手当等から計算された所得税額が、実際に源泉徴収された所得税額以下である場合。
年金所得者(老齢年金等の公的年金を受け取っている人)
・公的年金の年間収入金額(税引前)が400万円以下で、その所得税が源泉徴収をされていて、かつ、年間の退職所得、公的年金に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下ならば、年間の課税退職所得金額以外の課税所得金額にかかる所得税は確定申告不要。